
2018年6月の米朝首脳会談が行われたシンガポール。世界史に刻まれる一大イベントだったのに、Bloombergなどが謳った「安全」が貫かれ、テロ一つ起きることがなかった。
私は現地コーディネーターとして会談の一部始終を追っていたのだけれど、今回も痛感したのは一つ。
シンガポールがいかに「飴とムチの使い分け」と「目に見えない監視」に長けているかということ。
事を荒立てないような根回しが予め構築されていて、当日は最低限の警備だけで済ます余裕を生み出すのだ。
「最低限の警備」の盾になる一つが「顔認証技術」だけれど、そんなものはお手の物♪現在は、チャンギ国際空港内で飛行機に乗り遅れそうな人を顔認証を使って探し出す監視カメラシステムの導入を検討中らしい。昨年からは「全国デジタル身分証明生体認証システム」を称して、病院や銀行などでも画像のみで個人を特定できるようになる。
シンガポールには「メディアコープ(Mediacorp)」という、テレビ・ラジオ・新聞制作などを行なっているメディア企業がある。昨年の暮れにシンガポールを訪れた知り合いの日本人高校生がいて、地域の国際交流プログラムに参加した時このメディアコープ本社を訪問したらしい。彼によると建物の中には「めちゃくちゃ大きなスクリーン」があって、「街中の監視カメラの映像を、人間のシワが見えるくらい拡大することができた」らしい。目をまん丸くして、シンガポールすっげぇ!と無垢に感動していた。
うん、そうだよね。シワまで拡大されたら個人特定どころか肌年齢までバレてしまうよ。
確かに「すっげぇ」シンガポール。
セキュリティ、監視カメラ、防犯、テロ対策…。
外国人労働者に対しても容赦ないもんな。
先日シンガポールの中華街で友人とご飯を食べていたら、こんなことを言われた。
私たちがどこにいようと、3方向からカメラで撮られているのよ。
ええぇ!
そんなバカな。
しかし意識して見渡してみると、確かに数多の監視カメラが設置されていた。
そう、例えば。
こちらはシンガポールのとある駅構内の写真。

改札周辺だけで、19台もの監視カメラが見張っている。
そんなに、いります?!ちょっと拍子抜け。
ちなみに設置の主導権を握っているのはシンガポール内務省(MHA)だ。
なにもこの駅が特別だったわけではない。
別の駅のホームに降り立っても、こんな感じ。監視の厳格さは変わらない。

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むしろ過去に殺人でも起きたんですか?ってレベル。
一つ一つを意識しだすと気が狂いそうなほどに、常に誰かに見られている。
商業施設はもちろんのこと、裏路地やシェアハウスの廊下まで、カメラ、カメラ、カメラ…。監視されていないのはトイレの個室と自分の部屋くらいじゃないだろうか。
中でも最強なのは、360度死角ゼロで目が行き届く監視カメラ「PolCam(Police Cameraの略)」。
シンガポール内務省によると、2012年の「PolCam 1.0」の導入からHDB(公共住宅)エリアで導入されたカメラはなんと65,000台。2016年半ばに新モデル「PolCam 2.0」が登場し、翌年2017年末までに5,000台を追加で設置。また今後数年間で、新たに2,500箇所、11,000台のカメラを導入予定だそうだ。


設置場所は、公共住宅地や市民食堂ホーカーセンター、そしてMRT(地下鉄)やバス乗り換え所。シンガポール国民の生活のインフラゾーンだ。
観光名所周辺よりもローカル感溢れるエリアの方が、かえって監視カメラが目立ったりする。
つまり、政府は観光客と同様、いやそれ以上に、シンガポール国民の日常に目を光らせていることになる。国民を完璧な監視下において、犯行意識を早摘みしているのだ。

罰金大国シンガポール
というわけでシンガポールには「良い子」が多く、電車内の痴漢や窃盗罪など、犯罪の母数は少ないとされる。しかし当地で「良い子」が量産されているには、もう一つある。
厳しい罰則である。
チューインガムの持ち込み、MRT(地下鉄)構内での飲食、つばの吐き捨て、ゴミの投げ捨て、タバコのポイ捨て、禁煙区域での喫煙、鳥へのエサやり、公共の場での飲酒(22時半以降 ※場所による)が全て罰金対象にあたることは有名な話。
それに加え誘拐罪の最高刑は死刑にあたるし、シンガポール初の世界遺産であるボタニックガーデンや、セントーサ島内での植物の摘み取り、植え替えには最大5,000シンガポールドル(約40万円)の罰金が課されるそうだ。
今年5月には、シンガポール港湾局(MPA)によって停泊中の船舶の煤煙排出に、最大で5,000シンガポールドルの罰金を課すという報告もなされた。
チャンギ空港を利用する航空会社が発着時間を破った場合にも、最大10万シンガポールドル(約800万円)の罰金などを科すルールが敷かれるという。
「郷に入れば郷に従え」とは言うが、シンガポールに至っては「郷に入ればおとなしく跪け」。
あれもダメ。これもダメ。
従えないなら、金を払え。
そういう国なのである。
監視社会が守る国民の安全
常日頃からの「監視体制」と、厳重な「罰金制度」。
この2つの見えないインフラが毛細血管のように蔓延っているからこそ、シンガポールでは自然に「良い子」が量産されるシステムが根付いている。
先日のような歴史的会談でも、シンガポール政府は観光客にも見物を許すような”エンターテイメント感“を維持する余裕が見られた。絶対に犯罪を起こさせない自信と、仮にそういった事態が起きたとしても犯行者を洗い出し社会的に抹殺する自信があるように思う。
だからこそ「安全な国」としての国際的評価も高いんだろうな。
余談だけど、監視社会では「目撃者がいない冤罪」を避けられるのも利点だよね。自分が犯していない行動を避難されても、元映像が鮮明に残されているんなら、それを辿れば無実を証明するのは簡単だから。
シンガポールは今後どのように安全性を守っていくのだろうか。
