
シンガポールにも、自然があるんだよ!
こう言うと、ほとんどの人はまず信用しない。
あー、ボタニックガーデンのこと?笑
と、嘲笑されるのがオチだ。
あゝ、哀れなシンガポール…。
でも「自然」と言うに相応しいネイチャースポットが存在するのは本当みたい。

国土の約6km2は「自然とのふれあい」を促すために、農業公園に当てられているらしいよ。

今は約200も農園があるんだって〜!
葉物野菜の出荷を支えるKok Fah Technology Farm
その噂の農園地帯は、シンガポール中心部からタクシーで30〜40分ほど走った北部にある。
近代都市国家の代名詞であるシンガポール像を打破してくれるネイチャー・スポットの1つが、北西部に位置する農園「Kok Fah Technology Farm」だ。
過去30年間に渡りシンガポール国内への葉物野菜の出荷を支えている、家族経営の老舗農園である。

湿った土壌が、つんと鼻を刺激する平地。草木の髄から溢れ出る、なんとも言えない青臭さが周囲に満ちていた。ジリジリと照りつける日差しに張り合うように、ミンミン蝉たちは大合唱をしている。お腹いっぱいに吸い込んだ新鮮な空気は、吐き出すのがもったいない。
遠くの方では、麦わら帽子のおじいさんが鍬を振り下ろしている。遥か彼方まで等間隔に続いている茶色い凸凹の畑は、そのまま絵葉書になりそうだ。烏避けのCDがくるりと回転し、チラチラと白い光を放つ。
そよ風に混じって、オシロイバナの熟れた香りが漂ってきた。
なんだか草木も活きいきとして嬉しそうだ。
シンガポールの農業を支える最新の水耕栽培テクノロジー
Kok Fah Technology Farmはその名乗りの通り、最新の農業技術で広く知られている。
日本では食料自給率が40%を切り先進国最低水準に達してうんぬん…というニュースが注目を浴びているが、シンガポールはそもそも自給率を公表していない。おそらく1割未満であろうと推測されているその内訳のみ公になっており、2017年現在シェアの高い品目から鶏卵(約26%)、魚(約8%)、葉物野菜(約8%)が挙げられる。
シンガポールは天災や気候の変化に見舞われることは少ないが、代わりに東京23区ほどの国土しか有さないというデメリットを抱えている。
そのため農業においては「限られた土地でいかに生産効率をあげるか」が最大の課題とされている。
そんな現状に向き合う技術の一例が、Kok Fah Technology Farmに代表されるハイドロポニックス(水耕栽培)だ。

害虫や細菌を防ぎやすいんだって。温度や湿度もカンタンに調節できるらしいよ♪
レタスや空芯菜などの葉物野菜は、ここでそれぞれに適した方法で栽培され、なんと苗の植え付けから最短2ヶ月という脅威のスピードでシンガポール国内のスーパーまで送り出されるのだ。

土壌栽培の場合も、必要な栄養分や水分はチューブを通して均等に配分されている。
いくつかのラックには「CO2」と明記されたボンベが備え付けられていた。
スピード収穫のために光合成を促しているのだろう。


シンガポール農家たちに襲いかかる厳しい土地競争
水耕栽培やLEDライト栽培などは、「安心・安全」を求める消費者としても魅力的な技術だ。
一方で農園の経営者たちには、シンガポールの農業を牽引すべく大きな期待とプレッシャーがのしかかっている。

シンガポールの農業は上図の通り北部に散らばっているんだけど、中でも野菜の生産で有名なのが、「野菜マーク」のある北西部のLim Chu Kangというエリアだ。
シンガポール政府は昨年、この地域に対する「競争入札方針」を固めた。競争入札方針とは・・・各農家の入札金額や、以下の評価項目を総合的に判断して、農地の契約者を決めようというものだ。
・大量生産性 (30%)
・生産データ収集力 (30%)
・農業関連経験および資格等(20%)
・イノベーションとビジネスの持続性(20%)
もし競争に負ければ、農業を営む土地を得ることができない。有無を言わせず事業閉鎖。
出荷率ならまだしも入札金額でも農家同士に競わせるなんて、なんともシンガポールらしい。
「国の発展には熾烈な競争がつきもの!(意訳)」という政府の方針がここまで浸透しているとは、つくづく妥協のない国である。
シンガポールの地元民に愛される農作物マーケット
Kok Fah Technology Farmはそんな農地激戦区からは少し南下した場所にある。とは言え頻繁に足を運べる人は、車を持っている人か、ご近所さんに限定されるだろう。
辺鄙な立地のせいか、この日の訪問者は偶然にも?地元の人たちばかりだった。
シンガポールのシンボルである蘭の花や、農園名物のアロエも販売されていた。オフィス街では普段5ドルもするうずらの卵は、半額以下の2ドル(!!)で手に入った。

安ぅ〜!
市内のホーカーでは食事の栄養価よりも安さと手軽さを求めるシンガポール人たちを目の当たりにしているだけに、できるだけ新鮮な野菜を求める人たちも多いことを知れたのが嬉しい驚き。


親子連れの姿も多く、パパやママが一生懸命子どもに野菜の育て方を教えようとしていた。
口にするものはほぼ全て輸入品と相場が決まっているシンガポール。ビジネス街で生まれ育ったら、どのように野菜が作られているかというプロセスを意識することは少ないかもしれない。
実際にCNAでは、野菜が一体どこからやってくるのか理解していない子どものインタビューが取り上げられたほど。
外国人からの「シンガポール産の食べ物なんてないよね?」という誤解も少なくないこの国では、住民に食物の物流を意識させることも、科学技術と並んだ大きな課題なのかもしれない。

▼Kok Fah Technology Farmへのアクセス▼
